博物館展示 No.002-002 : バギ 原作:手塚治虫
MUSEUM FILE No.002-002 NAME : BAGI
傷もすっかり癒え、食満ち足りた二人。
ここはジャングルのまっただ中。 危険動物も数多く棲んでいるところです。
しかし、多くの人間たちの悪意に満ちた追跡をうけ続けてきた二人にとって、見方をかえればこの人間界から隔絶されているジャングルこそ安住の地なのかもしれません。 危険な旅を続けながら人間社会に戻るより、このままここでなにもかも忘れ去って二人きりで暮らしていくほうが自分たちにとっては幸せな未来が得られるのではないか・・・。今まで人間社会で人の目を避けながら鬱屈した暮らしをしてきたバギも、両親や暴走族仲間に粗略に扱われてすさんだ生き方をしてきたリョウも、ひさしぶり訪れた穏やかな日々を過ごすうちにそう考えるようになっていました。
リョウには傷を負ってから数日のあいだ献身的に看病して働くバギへの感情が大きく変化してきていました。
恐ろしく、凶暴な猛獣としてしか見えなかったバギが、こうして肌が触れ合い息のかかるようなごく近い距離で彼女を見続けているうちに、恐ろしいケモノではなく、美しいメスとして見えるようになってきていたのです。
バギも、リョウを看病するときに彼の体の隅々までをなめたりさすったりしているうちに、まだ僅かにあどけなさを残しているとはいえ彼の体がもうすっかり男性として完成されていることを知りました。 そしてそのリョウがこの数日の間に自分を以前とは違った目で見はじめたということにも気がつきはじめていました。
バギは、研究所で自分が同種のものがまったくいない天涯孤独であると知らされたときから、自分がオスと認めるのは子猫のときに彼女を拾いかわいがってくれたリョウをおいて他にないと考えるようになっていました。 しかし、遺伝子の大部分が人間と同じとはいえ、種としては明らかに異なる二人です。リョウが自分を好いてくれているとはいっても、それはペットとしてのこと。愛し合い、体を交わらせ、子孫を残すつがいの相手として。・・・メスとして見てくれることなど望むことはできないと、あきらめかけていました。
それがこの数日で一変しました。リョウが自分をメスとして見てくれているのではないかと気がついたのです。 バギは内心では躍り上がるほどにうれしくてたまりません。リョウの存在を感じるだけで心臓の鼓動は速まり、身体は本能のおもむくままに発情してしまいそうになりました。 しかし、まだ確信を得ていたわけではありません。もしも自分の考えは間違いであって、積極的にリョウに求愛して拒絶されたら・・・。そうなったとき自分は正気を保てるのだろうか・・・。そう考えると、恐ろしくて自分からは何も行動がおこせなくなってしまうバギでした。
リョウのほうといえば、彼は今までに恋愛経験が全くありませんでした。もちろん片思いに終わった幼い恋の経験くらいありましたが、実際にそれを相手にうち明けたこともなく、ましてや異性と交際したことなどありませんでしたから、バギへの恋心を自覚しつつも、どうやってこの想いを彼女に伝えたらよいのか。・・・いや、そもそも人間ではない彼女に伝えてしまって良いものか? などと悩みに落ちてしまうのでした。
・・・つづく